我、夜戦ニ突入ス!~2024BRM727北海道400トカプチ朝駆③

ブルべ

霧雨をかき分けて~通過チェックD(ローソン池田利別店)~PC3(セブンイレブン浦幌町店)

 前半戦は余裕をもって終えることのできたトカプチ朝駆400。

 インディアンカレーも食べて意気揚々と後半戦に突入しますが…それは400㎞ブルべの洗礼を受ける前の一息だったのでした。

再びの霧は雨に変わり

「急げば夕焼けが見れるかもしれません」

 PC2を出るときにFさんにはそう声をかけてもらいましたが、出発すると再び天気が悪くなる一方でした。

 幕別のころには霧がかかり始め、利別の通過チェックDを越えて十勝川沿いを走っていると霧が濃くなっていくのを感じました。太陽のシルエットすら見えないほどの濃霧です。

 そして、霧は肌をしっとりと湿らせるくらいの霧雨に変わったのでした。

根室本線利別駅 天気が悪くなってきている

夜闇が迫り、貯金も消えた

 通過チェックD(ローソン池田利別店)のあたりから、余裕がそこまでないことに気が付いていました。

 そして、PC3に到着した時、目安となるクローズ時間の10分前(20時01分)となっていました。

 カレーを食べていたとはいえ、平地区間の平均速度が思ったほど伸びていない…いや、少しづつ疲労が出始めているようでした。

ナイトライド準備

 PC2くらいから追いついたり離されたりしていたロードバイクの方は、言葉もなくぐったりと座り込んで休んでいました。

 残り150㎞、残り時間は10時間、いわゆるブルべペースで走らないと間に合わないという現実を数字で見ました。

 300kmは200の延長、なぜならその日のうちに帰ってこれるから。400kmは一番つらい_

 多くのランドヌが抱く感想を実感しました

 本当に走り切れるのか、ここから先は真夜中だ、まとまった睡眠はとれない、DNFしても移動手段がない_

 補給をしながら、一瞬で様々な誘惑が廻りましたが、次の瞬間には進むことを決めていました。

 これは走り切れなかった積丹400のリベンジマッチで、あの時の先を目指そうと。

 ライトの電池を新品に入れ替え、動作を確認し、セブンイレブンを後にしました。

初めて夜を通じて走ることになる

我、夜戦ニ突入ス!~通過チェックE(昆布刈石分岐)~PC4(セブンイレブン大樹西本通店)

信号も街灯もない50㎞

 時間は20時を回り、前照灯にははっきりと霧雨が映りました。

 眼鏡に着いた水滴も相まって、視界は劣悪そして街灯も信号もない道が始まったのでした。

 浦幌市街地から道道1038を抜け、国道336号に入ったところに通過チェックEがあります。

 正直立ち止まりたくないくらい真っ暗の中、証明写真を撮影して先を急ぎますが、この先もまだ40km以上この道を走らなければならないのでした。

通過チェックE、信じがたい闇

劣悪な視界が見せる幻影

 道道336号は、別名ナウマン国道と呼ばれています。ナウマンゾウの化石が見つかったということですが、サイクリストの間では「意外とアップダウンがある」ということで有名です。

 霧雨の中をvolt400とurban50の二つをメインライトに進みますが、前方視界は最悪でした。仕事柄、真夜中に明かりなしで山を歩いたりするのですが、その時と同様に黒っぽい幻影が見えます。

 実際、横の茂みはわずかにある風や動物の気配でがさがさと動いており、何度もシカを見ました。

 闇と奪われる視界から恐怖を覚え、速度を落とそうとします。一方で余裕のない刻限が私を攻めたて急がせようとします。

 これが400㎞ギリギリ隊のスリルかと実感していました。

休憩しながら何度も現在位置と時間を計算しなおしていた

公衆トイレでの交流

 ナウマン国道を一心に大樹町へひた走ります。

 時間は22時を回りましたが、追い抜く自動車、向こうから来る自動車が来るたびに、人の往来がある心強さを感じながらクランクを回し続けました。

 キューシートには300㎞地点付近に公衆トイレがあるということだったのでそれを目指していました。

 公衆トイレに到着しましたが街灯の一つもなく、真っ暗で1台の軽自動車が駐車していました。特に気にも留めずブロンプトンを停めると運転手の男性から声をかけられました。

 音更の方から帰ってきたが、たくさんの自転車を見た。何かのレースでもやっているのか?_

「同じブルべの参加者で、400㎞走ってる最中なんです」

「私がたぶん最後尾でギリギリを走ってます」

 そう伝えると非常に面白がっていました。他の自転車とこの自転車の違いは見た目で分かるからでしょうか。

 その後別れて、トイレを済ませて、持ってきたおにぎりを補給して先を急ぎました。

公衆便所の周囲に数軒の民家はあるが寝静まっていた

PC4、クローズ14分前!

 道路沿いのロケットのモニュメントを越えると、巨大な明かりが見えてきました。歴舟川を渡る、歴舟橋です。

 久々の人工の明かりに安心感を覚えますが、橋の上には轢き殺された動物の死骸が!肝を冷やしました。

 そして到着した333km地点、PC4にて買い物を終えたのは0時58分でした。

 クローズ14分前、少し疲労感があったのでレッドブルを何本か買い、1本飲んでから進むことにしました。

PC4 セブン・イレブン大樹西本通店にて

初めてのオーバーナイトライド~PC5(セブンイレブン中札内店)~ゴール(道の駅おとふけ)

まとまった仮眠は取る時間がない

 残り70kmで5時間程、速度を平均すると14km/hで、数時間の仮眠をとっていたら間違いなく間に合いません。

 しかし、ハンドリングが不安定になり、ペダリングに力がない状態が見えてきたので仮眠できる場所を探しながら走ることにしました。

バス停で横になる

 探し始めてから10分ほどで上更別の市街地に入り、屋根付きのバス停を発見しました。

 僥倖と自転車を停めて、そのままベンチに横になり、10分間のタイマーを駆けました。

 すぐに寝落ちして意識が暗黒に落ちましたが、爆音で目が覚めました。タイマーの音ではありません。

 大型トラックが通り過ぎた音でした。

 後で調べて分かったことですが、高速道路の入り口が近く、大型トラックが深夜でも頻繁に通るようでした。

 目が覚めたのでレッドブルを再び流し込み、走り出しました。結果として8分ほどの睡眠とはいえ、体が回復したのを感じていました。

PC5 セブンイレブン中札内店にて

本格的な雨に変わった!

 仮眠をとったことで回復し、必要であれば同じくらいの仮眠をもう一度とればよいと考えられるくらいに頭の回転ももどって、いいペースで進み続けました。

 しかし霧雨は更に重くなり、ポツポツと当たり始めました。

 数分走ると、本降りの雨に変わりました。時間は午前3時頃だったと思います。

 フロントバッグにカバーをかけましたが、こんなに雨がフルとは思ってもおらず、もってきていたポンチョは着ずに走ることにしました。

PC5もクローズ10分前!行ける!

 幸いにも程なくして最終PC5に到着し買い物を済ませますが、雨は弱くなる兆しがありません。

 気温は16度ほどあったので、そこまで寒くなく、濡れていても行けると判断しました。

 フルセットの着替えがフロントバックに入っていたことと、氷点下18℃で凍えそうになりながら自転車に乗った経験からくる安心感が私を前へ推し進めました。

PC5はクローズ13分前に通過した

防災センター軒先で最後の仮眠

 PC5の出発は3時半前だったと思います。この時点で宿泊をせずに24時間以上走り続けていることになります。

 社会人として働くようになると時折は夜遅かったり朝早かったりすることはありますが、ここまで休憩が少なく動き続けたのは初めてでした。

 本当に非日常の世界に足を踏み入れてしまったのだと感じるも、当時の私の士気は高揚していました。

 残り40km弱、このペースを守ればゴールできる_

 越えられなかった300kmの壁を超えつつある_

 手が届きつつあるゴールを掴みたいと言う気持ちだけがそこにありました。

 とはいえ10kmほど走るとやはり眠気が襲ってきました。

 広域農道に小学校や小さい集落が点々としていてなかなかに少し仮眠できそうな場所が見当たりません。

 走っていると地域の防災センター的な公共施設があったので、その軒先で休ませてもらうことにしました。

 タイマーをセットはしましたが、朝になり人の動きが活発になってきていたので通りがかった自動車の音でまたしても目が覚めました。

最後の仮眠後のサイコン。ゴールが見えてきている

26時間超、走り切ったぞ!

 仮眠した頃一度止みかかった雨は、出発すると再び強くなっていました。

 夜間と同じく全照明を点灯し、交通事故防止に務めながらゴールに向けて走ります。

 時間的余裕は30分と無いので、交通事故一つでDNFです。安全運転第一で進みました。

 道の駅おとふけが見えてきましたが、一層雨が強くなり、思わず笑ってしまいました。

 雨はブロンプトンにはよく似合う。祝福の雨だと感じていました。

「おお!本当に来た!」

 道の駅に入り、ブリーフィングをしたトイレの建物に近づくとFさんらが待っていました。

 全身ずぶ濡れでしたが、用意された椅子に座ってすぐにブルベカードへの記入を行いました。

「会うたびに笑顔だったから、こちらが元気をもらいました」

 そう伝えられたのが印象的でした。ゴールしたときもきっと私は達成感のある顔をしていたのでしょう。

 時間は26時間37分、前週の炭鉄港と同じくギリギリ隊でしたが、Oさんに借りたブロンプトンで走りきれたことが嬉しかったです。

 成功というのは一人ではなしえないものだと実感しました。

全身ずぶ濡れだったが着替えがあったので助かった

限界を超え、次のブルべへ!

「200しか走れない」から「400km走れる」へ

 この日まで、函館300、積丹400とDNFが続き、200kmブルベまでしか私はブロンプトンで走れないのではないか。

 よしんば走れるとしても次のPBPには間に合わないのではないか、という不安感を抱えていました。

 しかしトカプチ朝駆400を走りきったことで、私も「400km走れる」ということを証明できたのです。

600kmとその先が見えてきた

 そうなると、その先の景色を見たくなります。PBPでは1200km、600kmを2本走るようなイメージです。

 当時の予定としては、まさかトカプチ走りきれると思っていなかったこともあり、9月の予定は決めていませんでした。

 結果を受けて、9月10月にそれぞれ600kmブルベを、可能なら12月まで道外のブルベに参加してSRを目指すことに目標が変わりました。

 人生は短いです。その中で自らやるべきことが見つかることは幸せなことです。それをなすために全力を尽くしてよい人生にしたいと考えるようになっていました。

帯広駅前バスセンターにあるトカプチ400の看板にて まさに今回のためにあるようなもの

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