抜きつ抜かれつブルベのように〜年越し宗谷2023Day4

ファットバイク

本格的な雪道ライド

 2023年12月29日_

 5時頃に起床した私は手早く着替え、荷物をまとめていました。

 朝食を食べたならすぐに出発するためです。

90kmを一日で走る

 この日の行程は、名寄から音威子府、中川町を経て、幌延町南部の集落「問寒別」までの約90kmを12時間程度で走る計画でした。

 今回の全日程の中で一番長距離を走る日です。

 そのため、宿を出たのは6時半頃でした。

穏やかな天気

 気温はマイナス6度くらい、無風の中を小さな雪がちらつく程度の穏やかな天気でした。

 最高のコンディションです。

 快速に美深方面に、東雲峠を越えて走っていきます。

 予想していたとおり、名寄から北は交通量が一気に減りました。

 途中から国道40号に合流しましたが、車道を余裕で走れるくらいの交通量でした。

 尤も歩行者の姿はなく、歩道も除雪されていない場所のほうが多いという閑散区間になっているのですが。

雪雲の切れ間の風景は思わず脚を止めるほど

セイコーマート美深店での出会い

 今回のマスタープランでは、概ね1時間から2時間、15kmから20kmごとに補給を取れるように計画をしていました。

 名寄から最寄りの補給点はセイコーマート美深店です。概ね18km、1時間ちょっとで到着しました。

 この先は音威子府まで補給ができない可能性があったので多めに買い物をしていると一台のグラベルバイクが追い抜いていったのでした。

 その後、私も出発すると、以外なことに割とすぐに追いつき、挨拶をして前に出ることになりました。

 道の駅びふかで一度トイレ休憩を挟んでいると追いついてきたので交流してみることにしました。

 千歳から自動車で士別まできて、そこから野宿をしながら稚内を目指す同志でした。

 この後も中川町まで彼とは抜きつ抜かれつ走ることになりました。

さながらアイスブルベのような光景

音威子府で宗谷ラッセルを見る

 天候はずっと穏やかなまま、順調に進んでいきました。

 逆に順調すぎて咲来の定食屋さんが開店する前に音威子府に到着してしまうハイペースでした。

 補給できるのはセイコーマート音威子府店くらいで、買い物を負えた後、音威子府駅で食事をすることにしました。

 音威子府駅で補給していると、汽車の時間ではないのに車両がやってきました。

 見ると前後に作業装置をつけた機関車です。

 宗谷ラッセル_

 雪国の鉄路の守護者にして、走行しながら雪を線路外に弾く力強い姿は、多くの人を魅了しています。

 まさか間近で見ることができると思っておらず、思わず声が出ました。

奥が宗谷ラッセル、手前が除雪作業装置で離合していた。

名大生3人組と出会う

 音威子府駅での補給を終え、再び国道に合流すると、前日に名寄でみた3人組と出会いました。

 聞くと、前日は2024年に廃止される初野駅や恩根内駅を巡り、野営していたということでした。

 同じように宗谷岬を目指しているとのことで、本日も幌延町あたりで野宿だというので

「雄信内駅周辺で穴持たずが出てる」

「問寒別にゲストハウスがあるから泊まれるかも」

と情報交換して一旦別れました。

 3人は道の駅で食事をしてからということだったので、先に私は出発しました。

10月は紅葉の鮮やかだった神路渓谷も水墨画の世界

ファットバイクは左に寄せられる

 その後は中川町まで、私を含めた5人は抜きつ抜かれつという感じで進みました。

 アイスブルベというものが数年前に開催されていたと聞き、憧れていましたが、きっとこんな感じだろうと感じながら走っていきました。

「やっぱりファットバイクは安定してますね」

と、他の方全員から言われます。

 当時の私は雪の上をファットバイクでしか走ったことがなかったので、そこまで実感はなかったのです。

 しかし数センチの積雪でもMTB以下の自転車では不安定な挙動になるから、雪に突っ込めて羨ましいということでした。

 輪行は確かに大変でしたが、ファットバイクの力を示せたので良かったと感じています。

天塩中川駅

日本一しょぼいゲストハウス「ウタラといかん」へ

いよいよほとんど車のない道道を走る

 中川町までくればあと10kmちょっとですが、時間は16時を回っていました。

 渓谷の町の日没はひときわ早く、セイコーマートで買い物をしているとどんどん暗くなっていきます。

 幸いにも中川町から本日の宿のある幌延町問寒別集落までは道道があるので、それをたどって行きます。

明かりが見えたら問寒別

 国道を離れると、年末の夕方ということもあり交通量が一気に減りました。

 街灯もありません。

 この先に本当に目的地があるのか?

 疑問に感じながら自転車を進めていると、15分おきくらいに通過する自動車が通るたび、この先に人がいると信じることができました。

 すっかり日が落ちた17時半頃、1時間ぶりに人工の光が見えた時、とても安心したのを覚えています。

 人口約400人、幌延町第二の集落です。

看板猫のポン太。神様である。

北海道の古民家を再生したゲストハウス

 町明かりを抜け問寒別駅の交差点を曲がると程なくしてゲストハウスに着きました。

 築50年ほどの名前に違わぬ姿で、中から弦楽器の音が聞こえてきます。

オーナーは除雪バイト、北大ピアノサークル、流浪のチェロ弾き!?

 私が扉を開けると、対応してくれたのは除雪バイトの住み込みの男性でした。

 JRの線路の除雪を行う地元の土建がおこなっている期間バイトで、オーナーの阿部さんも本日は上番しているとのことでした。

 もう一人の、チェロを弾いていた男性も加わり、簡単に施設の説明の後、雑談が始まりました。

 流浪のチェロ弾きだと言われているそうで、本当によくわからない面白い人でした。

「阿部ちゃんの性格が良いからみんな集まってくるんですよ」

 彼らの言葉が印象的でした。

 しばらく話していると、5人ほどの集団が帰って来ました。がやがやと、手には買い物袋を下げています。

 北海道大学のピアノサークルで、年明けまで滞在するとのことで、これもまた阿部さんの交友関係ということでした。

 聞けば旭川のイオンまで汽車で買い出しに行っていたとか。しっかりとした宗谷線利用者で、私は感動していました。

最終的に15人ほどの大宴会に

 その後も地元の若夫婦や、老婆、近くの地域活性団体の人、北海道新聞の記者と次々と人が集まってきます。

 それぞれが料理やお酒を持ってきています。

「これは年に何回か偶然に起きる特別な符ですね」

 除雪の男性が私に伝えてくれました。

「ラッキーですよ」

 そしてなんと、中川で別れた名大自転車サークルの3人組がやってきました。

「熊が怖いので泊まることにしました」

 と、なんと15人余りの人が集まる大宴会となったのです。

 宴会はカオスそのものでした。風呂に入る人、料理をする人、ピアノとチェロのセッションが始まり、大合奏…

 それらが同時多発的に起こりそれぞれの自由が調和しながら共存している、理想的な感じでした。

 誰かがリーダーというわけでもない、かといって身勝手な人もいない、そういう集団でした。

オーナーの移住が周囲を変えていっている

「阿部ちゃんが住んでるから問寒別に来てみたんです」

 そういう声は結構聴きました。そして地元民からもしっかりと愛されて、ウタラといかんが交流の場になっている。

 このまちの、国の未来は明るいと感じました。

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